「パパ、俺、バスケやりたなってきたわ」
映画館を出るときの息子の一言が沁みました。どうだ、面白かっただろスラムダンク。
『THE FIRST SLAM DUNK』を見るのはこれが2回目でした。
1回目は1人で。2回目は嫁さんと息子を連れて家族3人で。バスケ経験者の嫁さんと、これからひょっとしたらバスケをやるかもしれない息子に僕が披露した「これは絶対見といたほうがいいで!ほんまにヤバい映画やったから!」というアホみたいなプレゼンが効いたのか、割とあっさり「じゃあ3人で見に行こうか」となって。
実はこの映画を見るまで、僕は『スラムダンク』のことを漫画もアニメも全くと言っていいほど知らなくて。中学3年間、バスケ部に所属していたのにも関わらず、です。この話をすると大抵の人に「そんな人いるんだ……」と驚かれるんですが、いるんです、ここに。
バスケットボールのリアリティ
※以下、重大なネタバレを含む箇所があります。
とにかくアニメーションの迫力が凄まじい作品、という第一印象。
山王戦。試合中、何度も息を呑む。
リョータの素早いノールックパス、三井の華麗なスリーポイントに思わず「うおっ」と声が出る。臨場感…と言うといかにもありがちな表現になってしまうのですが、自分が今、映画館にいるのか体育館にいるのか、いつの間にか脳が完全に錯覚を起こしていました。湘北の得点シーン、特に終盤は本気でガッツポーズをしそうになる自分を止めるのが大変でしたもんね。
モーションキャプチャーと手書き作画の見事なハイブリットが、バスケットボール選手特有の素早く複雑な動作の再現に革命的なリアリティを与えていました。まさにこの映像表現でしか生まれない迫力。試合を動かすドリブルでの切り込み、シュートを打つ瞬間の手首の跳ね方、ボールが通った後のネットの揺れ。「バスケやってて気持ちいいところ、そこよな」っていうツボを全部抑えていた気がします。
宮城リョータのバックボーンを中心に、試合中にドラマパートが挟まる構成も良かったと思います。特にリョータと母親の諸々については、僕も年を重ねてこういった親子の物語には弱くなっているのか、特に母親が遅れて山王戦に駆けつける一連のシーンでボロボロと涙を流してしまい……。後から息子に「パパ、泣いてたやろ〜w」とからかわれました。「あんたも大人になったら泣くわ!」と言ってやりたかった。
しかしドラマの部分に感情移入して涙を流している途中にも、試合は刻一刻と進んでいく。「この感情、どこに置いておけばいいの?」と戸惑いつつも、気がついたら手に汗握って湘北を応援している。何分、何秒という試合時間の経過が作劇の都合に流されないよう意識して作られているのが分かるんですね。だからこそ生まれるリアルタイム性と没入感に、中盤以降はもう興奮が収まらなかった。最後の最後、何秒間か無音になるところなんて間違ってもジュース飲んだりポップコーン食べたり出来なかったですよ。良すぎる。10-FEETの『第ゼロ感』がかかるタイミングも100点満点。良すぎる。
それぞれの「THE FIRST」
ちなみに僕は中3で引退して以降、バスケには全くと言っていいほど触れずに生きてきました。補欠でしたし、バスケ部そのものにもあまりいい思い出がなくて。
でも『THE FIRST SLAM DUNK』を見て、あれから20年近く経って初めて「バスケ、続けてたら良かったかもな……」なんてことを思わされました。左手は添えるだけ。シュートの瞬間、ボールがネットへ向かうあのスローモーションをもう一度リアルで体験したい。バスケットボールに触りたくて仕方ないです、今。
これは同じく「バスケ経験者でスラムダンク未履修」という僕と同じ境遇の嫁さんも、鑑賞後に同じ感想を口にしていました。嫁さんは中学時代にキャプテンまで務めた立派なレギュラー選手だったらしく、バスケへの情熱は補欠で基礎練習をサボっていた僕なんかより何倍もありそうですから、余計にこの映画は刺さったと思います。
僕も嫁さんも、スラムダンク未履修だったことが『THE FIRST―』への感動をより高めていて。桜木花道が主人公ではないことや、原作ではそこまで深堀りされていないらしいリョータの過去にも違和感ゼロで臨めたのは大きかったです。むしろこれから触れるであろう原作のほうに違和感を持つかもしれない。いずれにしても、「これが最初のスラムダンクで良かったね」というのが2人の共通認識です。新年早々、いい映画体験をさせてもらいました。
そして、スラムダンクどころか、バスケットボールにもほとんど触れたことがないであろう息子にとっての『THE FIRST』。
僕があんまり面白い面白いと言うもんだから、彼も気になってYouTubeで予告編を見ていたようです。
鑑賞前、とにかく試合の結果がどうなるのかをひたすら気にしていた息子。僕が「赤いほうのチームが20点差つけられちゃうねんな〜」とつぶやくと、「え、そこからどうなるん?逆転するん?教えてや!」とグイグイ迫ってくる。
鑑賞中も、点差が縮まったり開いたりするたびに僕のほうを見て表情を変えるんです。すっかり試合に入り込んでいる。僕はなんとか我慢しましたけど、息子は湘北が逆転を決めたときに思いっきり「よっしゃ〜」って拳突き上げてましたから(笑)。
「ダブルドリブル」や「プッシング」といったバスケのルールに関する専門用語が出てくると、「後で教えてな」と僕に耳打ちまでしてきて。
そして最後に飛び出したのが冒頭の一言。
『THE FIRST SLAM DUNK』をきっかけに本当に息子がバスケを始めるのかどうかはまだ不透明ですが、少なくともバスケ未経験の小学2年生からこの一言を引き出した時点でこの映画はもう「勝ち」なんだと思います。
息子、同学年の子の中でも現状めちゃくちゃ背が低いんですけどね。そこはあれですか、「ドリブルこそ、ちびの生きる道なんだよ!!」ってとこですか。いやあ、宮城リョータ、いいキャラクターでした。
これから訪れるであろう息子の青春に思いを馳せつつ、バスケの面白さはもちろん、桜木が言っていたような「今しかない」その一瞬に全力で向き合えることの尊さが彼に少しでも伝わっていたらいいのですが。そういう意味でも、これが彼にとっての「THE FIRST」だったことは幸運と言えるのでしょう。もう少し大きくなったら、一緒に1on1したいですね。僕の夢もまた一つ増えました。