「ねー!今からこのお人形買いに行こーっ!!」
爽やかな土曜日の朝。テレビに映る新しいヒーローと怪獣を指さしながら、息子が興奮気味で僕におねだりしてくる。「このやり取りもう何回目やねん…」そう呆れつつも、僕も気が付いたときには息子と手を繋いで玩具屋の前に立っていて―。はい、現在放送中のウルトラシリーズ最新作『ウルトラマントリガー』の話です。
毎週土曜の朝9時から放送されている『オーブ』以降のウルトラマンシリーズ。息子とウルトラをリアルタイムで追いかけ始めてから早いものでもう4年が経とうとしていますが、「土曜の朝=ウルトラマン」の方程式が我が家に定着するまでにそう時間はかかりませんでした。
働いていると、土曜日の朝は一週間の中で一番気持ちに余裕のある時間帯だということに気付かされます。前の日の夜は目覚まし時計もかけずに穏やかな気分で床に就いているし、当日は「まだまだ自分の休みはこれからだぜ」という希望もある。息子の無茶なおねだりにも耳を貸せてしまうんです。これが月曜日の朝だとそうはいかないわけで(笑)。
息子を通じたソフビとの出会い
番組を見たそのままのテンションで玩具屋に駆け込むと、そこにはさっきテレビに映っていた新しいウルトラマンや怪獣のソフビが当然のようにズラリと並んでいる。
いつ間にか定着したウルトラシリーズの販促サイクル。親としてはつい財団Bの罪を数えてしまうのですが、大人になりきれない怪獣好きの一人としては、気分が最も盛り上がっているときにソフビと出会わせてくれるこの仕組みには素直に拍手を送りたい気持ちで。
僕が子供の頃に見ていた『電光超人グリッドマン』では、ソフビ化されたのは最初のほうに出てきた怪獣だけでした。だから最終回までずーっと同じソフビを握りしめていた記憶があって。それはそれで特別な愛着も湧くし思い出深くもあるんですけどね、息子が毎週のように新しいソフビに興奮している様子を見ると、単純に羨ましいなと思ってしまう。
「僕もこんな風に、毎週ウルトラマンを見てソフビを買ってもらって…って出来たらどんなに楽しかっただろう」と、息子を通じて子供の頃に叶わなかった夢を叶えているみたいなところがあります。
残したい作品の「手触り」
ただ一つ心配事があるとすれば、ウルトラシリーズで描かれる物語そのものが、この販促のサイクルを成立させるためだけのものになってしまわないか、という点です。
僕がこの歳までウルトラを好きな理由は、やっぱり「ドラマ」に惹かれている部分が大きくて。
番組の中盤にウルトラマンがパワーアップしたり過去の人気怪獣が再登場したりするのは、それが例え販促の都合によるものだとしても、僕は全然いいと思うんですよ。『帰ってきたウルトラマン』だって、ウルトラセブンにもらったウルトラブレスレットでベムスターを倒したりしていましたよね。あれは子供心にめちゃくちゃ興奮しましたもん。だから客演もパワーアップもどんと来いなんです。
その中で、例えばベムスターの回は単にセブンがウルトラマンを助けるだけの話じゃなくて、宇宙に散った親友の仇をとるために決死の出撃をする加藤隊長が物語を動かすもう一つのエンジンになっていたりする。そういう部分を決して疎かにして欲しくないな、と。
トリガー第12話『三千万年の奇跡』は、グリッタートリガーエタニティの初登場編として気合の入った作りであることは確かに伝わってきたものの、話の全容がやや掴みにくく、ドラマを楽しむ前にこれまでの回で張られた伏線云々のパズルを組み立てることから始めなければいけませんでした。
その回の「引き」が、ウルトラマンの新しい形態だけではドラマとして正直厳しい。GUTS-SELECTの隊員たちや周りの人間が、ウルトラマンや怪獣の出現という「現象」から何を見出していくのかをもっと丁寧に描いて欲しかったという思いです。
それに、息子が大人になってから『トリガー』について思い出すのがソフビのことだけではちょっと寂しいと思うんですよね。ドラマを体験しないと、作品の「手触り」って時間の経過と共に消えていくような気がしますから。
散財の歴史と僕の懐事情
息子がいつまでウルトラマンのソフビをおねだりしてくるのかは分かりませんが、僕も土曜日の朝に一緒にテレビを見てその日の午前中に玩具屋へ繰り出すこの生活は正直楽しいので、どんどんおねだりして来いよ、と。
もう彼のおもちゃ箱はソフビで溢れ返って凄いことになってはいるんですけど。何体持っているかなんて怖くて数えられませんもんね。この4年間は僕と息子の散財の歴史でもあります。
息子も小学生になって、最近、物を買う前には「値札を見る」ということを覚えました。3~4歳の頃みたいに、ふらっと立ち寄った家電量販店でいきなり4桁のDX玩具を欲しい欲しいと我がまま言ったりしなくなったんですよね。「あー!これ欲しい!…けど高いかあ」とか言って自重する(笑)。
彼のテレビを指さしながらの「ねー!」は、ソフビが気軽に買える値段だと分かっているからこそのおねだりなのでしょうか。なかなかに強かな我が子であります。
僕の懐事情に気を遣えるようになる頃には、さすがの息子もウルトラマンを卒業しているのかな?…そんな想像もまた、父親として過ごす上での楽しみの一つですね。