僕が僕であること(仮)

ウルトラマンが大好きな9歳の息子とのウルトラ備忘録です。

夕映えのウルトラマンタイガを家族3人で黙って見守るしかなかった話

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「タイガ、どうするのが一番良かったんだ」

「俺だって分かんねぇよ。あのときはああするしかなかったんだ……」

 

『ウルトラマンタイガ』第10話「夕映えの戦士」より

 

 「夕映えの戦士」って、てっきりウルトラマンの呼び名かと思っていたんですけどナックル星人のことでもあったんですね。見事なダブルミーニングに土曜の朝から「なるほど!」と膝を打ってしまいました。

 

 『タイガ』についてここで毎週感想を書くつもりは今のところ無いのですが、先週に引き続き今週も書かずにはいられない凄い展開。「宇宙人が密かに潜伏している地球」を舞台に、未来志向で描かれたホマレ先輩のカミングアウトに対して、今回の石橋保さん演じるナックル星人・オデッサのそれは、自身の過去と向き合いつつも「戦士としての誇り」を取り戻そうとした一人の暗殺宇宙人の姿でした。

 戦い終わった後のヒロユキとタイガの会話は、若い彼らだからこその苦悩と行き場のない感情がよく表現されていたと思います。バディものの利点がここで生きてきたな、と。僕が以前指摘した「胸にザラッとしたものが残る」ラストシーン、今回はエンディングテーマの『ヒトツボシ』までセットで情緒的に仕上がっていましたね。

ヒトツボシ

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ルトラマンへの情景

 ウルトラマンタイガとナックル星人・オデッサの戦い。武居監督がこだわったという「アクリル太陽」をバックにした昔ながらの夕景の美しさに加え、通常のBGMを使用せずにピアノの劇伴とオデッサの独白で見せる演出が実に冴えていました。特撮オタクはこういうちょっと捻った見せ方が大好物ですから。よく分かっていらっしゃる。

 小田さんの回想で登場した、夕日をバックに立つ「光の巨人」のイメージも良かったですね。あれはかつてナックル星人と死闘を繰り広げた「帰ってきたウルトラマン」ことウルトラマンジャックと見て間違いないのでしょう。

 世界観を飛び越えて歴代のウルトラ戦士が助っ人にやってくる、いわゆる客演はニュージェネ以降のウルトラマンの定番イベントですが、戦い敗れた宇宙人にウルトラマンへの情景を語らせることで「ウルトラマンの神秘性」を浮かび上がらせる手法は斬新でした。

  僕たちの知らないところでもウルトラマンは戦っていて、今、目の前で繰り広げられている戦いにもそれぞれの思惑や決意が交差している。現代の子供たちが直接知ることのない、“レジェンド”としてのウルトラ兄弟の最も正しい扱い方だったと思います。

って見守るしかない状況

 昨日はたまたま僕と嫁さん、息子の家族3人で『タイガ』を見ていました。普段は夫婦であーだこーだ言いつつ、息子の怪獣レクチャーにもうんうんと頷きつつ見る感じなのですが、昨日はちょっと違っていて。

 CMが明けてヒロユキがタイガへ変身した辺りから、僕も含めて誰も喋らなくなって。3人共、今日の『タイガ』がいつもと違う雰囲気だと察し、オデッサがタイガに倒されていく様子をただ黙って見守る。誰かがそうしようと提案したわけではなく、これは黙って見ておくのが正解だろうと家族の中で暗黙の了解が成り立っていたんです。

 僕と嫁さんだけならともかく、息子まで黙ってテレビ画面をじーっと見つめていたのは驚きました。

 彼は恐らく、物語の全てを理解はしていない。それでも、彼なりに「今日はいつもと何かが違う」と映像を通して極々自然に感じ取っていたようです。僕が子供の頃、メトロン星人やノンマルトの回を見て言葉にしようの無い引っ掛かりを覚えていたのと似ているのかもしれません。息子の目には、迷いの中でオデッサを倒したタイガの姿がどう映っていたのか、気になるところです。

 

 

 

 

『タイガ』のビターな味わい

 子供受けという意味では、こういう暗いお話って本当はあまり効果的じゃない気もするんですけど。昨年の『ルーブ』が特に明るい作風で、暇さえあればみんなでハッピーハッピー言ってた印象が強いので(もちろんそんな『ルーブ』だからこそ好きなのですが)、『タイガ』のこのビターな味わいに慣れるまで時間がかかるという人も多いかもしれませんね。

 『タイガ』では毎回のように登場人物の誰かが死ぬし、視聴者が何となく「こうなって欲しいな」と思うような理想の結末を必ずしも用意してくれない。メインターゲットである子供に対してやや突き放した感のあるスタンスは、古き良き昭和のウルトラシリーズの匂いも感じさせます。

 特に今回の『夕映えの戦士』は、それこそ『ウルトラQ』のナレーションのように「あなたの目はあなたの身体を離れこの不思議な時間の中に入って行く」感覚が味わえた気がして、初期のウルトラをリアルタイムで経験した人たちは多分こんな感じで引き込まれていったんだな、と。

 家族揃ってテレビを見ること自体がもはや珍しい光景となった時代に、こうして嫁さんと息子と同じ画面にしばらく見入ってしまうとは。なかなか貴重な経験をさせてもらいました。

 僕が密かに作成中の「大きくなった息子に訊いてみたいこと」リストに、この『夕映えの戦士』のことも加えておこうと思います。夕日をバックに雄々しく立つウルトラマンジャックの姿と、ヒロユキが流したあの涙を少しでも覚えていてくれたらいいのですが。