作家の切通理作さんが『ウルトラマンティガ』、『ダイナ』、『ガイア』のいわゆる平成ウルトラ3部作に出演したキャストや制作スタッフ総勢36名へインタビューを行い、評論と共にまとめた著書『地球はウルトラマンの星』。長年に渡り絶版状態となっていましたが、年内発売予定で復刊が決まったとのこと。
現在、その改訂版に掲載される(かもしれない)ファン向けのアンケートが下のサイトで公開されています。僕も早速回答。自分でもちょっと引いてしまうくらいの熱量を込めてしっかりと答えておきました。
僕が中学生の頃、ちょうど『ティガ』や『ダイナ』をレンタルビデオで見ながら手元に置き、毎日のように読んでいたのがこの『地球はウルトラマンの星』です。今回は待ちに待った復刊がついに実現したという喜びと感謝の気持ちを表現すべく、ひとりの特撮オタクの中学生がいかにしてこの本を読破したかという一大ドキュメント(大げさ!)。
勘の良すぎる母親からの贈り物
この本は、『ティガ』にハマりだした僕を見て母親が買ってきてくれたものでした。
うちの母親は大の映画好き。この辺りのオタク文化にも割と理解がありました。また、僕に読書をする習慣が無いことに不満があったようで、「今こいつに与えるべきはこの本だ!」と思ったのか、すぐ読みなさいと言わんばかりに机の上に置いてあったのを覚えています。今考えると、なんて勘のいい母親なのでしょうか(笑)。
当時の僕は確かに読書嫌いでしたが、この『地球はウルトラマンの星』に関しては1ページ目を開けた瞬間からのめり込みました。
自分が今夢中になって見ている作品について、上下2段組447ページ(!)という膨大な量の情報が降り注ごうとしている。中学生だった僕にとっては、未知なる世界へ旅に出るような感覚でした。それほど、この本に書かれているインタビューや評論は刺激的な内容だったんですね。
見てください、この文字の小ささを!まるで聖書です。
朝の10分間読書
ちょうどその頃、中学3年生のときの担任の先生が、クラス独自の習慣として「朝の10分間読書」というものを始めました。
登校してから1時間目の授業が始まるまでの10分間、みんなそれぞれ好きな本を持ってきて少しずつ読み進めてみましょうという時間。大人になった今考えると凄くいい試みだと思うのですが、ちょうど高校受験を控えた時期だったということもあり、読書というより自習の時間のようになっていた記憶があります。寝ている友達も多かったかなあ。
僕は自分の好きな本を学校へ持ってきてもいいというクラスの特別ルールに大きな喜びを感じ、この『地球はウルトラマンの星』を毎日カバンに入れて登校することに。僕があまりにも分厚い本を読んでいたからか、担任の先生も「よくこんな重たいもの毎日持って来られるなー」と笑っていました。たかが10分、されど10分。短い時間でも毎日集中して少しずつ読み進めると内容も頭に入ってきやすかった。おかげで膨大なページ数にも関わらず読み終えるとこができました。
ウルトラマンを通して語られるもの
『地球はウルトラマンの星』で注目すべきは、ほとんどの方がインタビューの中でウルトラマンを通して自身の半生を振り返っている点です。
イルマ隊長役の高樹澪さんが幼い頃、定期的にUFOを目撃していた話。川崎郷太監督の大学時代から特撮作品へ参加するまでの道程。脚本家の長谷川圭一さんの子供時代、周りに「怪獣気狂いだ」と言われながらもウルトラを見続けていた話などなど……。
どれも平成3部作の内容に直接関係のない部分なのですが妙に印象に残っていて。それらウルトラマンを通して語られるエピソードの数々は、ただの一ファンである僕を作品のもっともっと深いところへ近付けてくれたように思います。「この人たちが平成ウルトラマンをつくったんだ」そう思うと、作品への愛着もますます深いものになっていきました。
今回、この記事を書くにあたって改めて読み返してみた中から特に印象的だった言葉、また中学生の頃から僕の血となり肉となっている箇所をいくつか引用しながら紹介したいと思います。
僕、最後までリーフラッシャーを出す意味が全然わからなかったんですよ。それはバンダイのからみとか、もちろんあるんでしょうけど、俺がなんで、このリーフラッシャーを出さなきゃいけないんだっていう。リーフラッシャーがなくても変身出来るでしょ、アスカは絶対。
【ウルトラマンダイナ アスカ・シン役 つるの剛士】
今も「アスカは自分自身」と語るつるのさんのダイナ愛はこの頃にも。「俺は俺だ、ウルトラマンダイナだ!」の台詞が示す通り、ヒーローを演じた者としてのプライドですね。主演俳優がこんな風に語ってくれる作品のなんと幸せなことか。この後、また幾度となくダイナへ変身することになろうとはこの時のつるのさん本人も思っていなかったでしょう。
多分、子供が少年なり少女なりになっていくっていうのは、自分で選択することが契機になると思うんです。
子どもたちに何が言えるかと考えると、最終的には「自分で決めなさい」としか言えない。自分が選んだことだったら、自分が失敗しても自分が責任取るしかない。けれど、そう子どもたちに言っている自分がそれに恥じない形で生きているのかっていうことがあるんです。
【脚本家 太田愛】
実は僕、あの傑作と名高い『少年宇宙人』の良さを中学生の頃はいまいち理解出来ていませんでした。つまらないわけじゃないけど、「そんな泣くほどか?」って。大人になり、自分に子どもが出来てから見返して、そこで初めて良さが解った気がします。脚本家になる前は塾の講師をされていたという太田愛さんの子どもに対する視点は、鋭い中にも作品と同様の温かみを感じさせます。
「ウルトラマン島唄」は、橋渡しになればと思って書きました。戦争は、金城や僕にとっては経験だけど、読者にとっては歴史でしかない。少しでもそのギャップを埋めることが出来ればと…なぜかというと、人間は歴史を繰り返す種です。その意味で戦争は過去の古い歴史ではなく、近未来に、読者が、あるいはその子ども達が遭遇する必然であると考えています。21世紀の戦争は、それこそ悲惨極まりないものになると思いますよ。
【脚本家 上原正三】
今風に言えば、ウルトラ脚本界の「レジェンド」の一人である上原正三さん。やはり言葉の重みが違います。数少ない戦争経験者として若い世代に語り継いでいくべきものがある、その使命感のようなものが随所に。
上原さんが『ティガ』で執筆された『ウルトラの星』は、ウルトラ兄弟の反動でウルトラマン同士の共演に対するアレルギーがまだ根強く残っていた時代に、ティガと初代ウルトラマンの握手を理想的な形で実現させた傑作。今こそ見返すべき作品かもしれません。
テレビってのは教師じゃない。感じてもらうためのキッカケでしかないですからね。それがすべてだと思ってしまうような子どもが居たとしたら、それはその子どもの特殊性かもしれないし、そこの家庭環境にも問題があると思うんですよ。テレビにすべての責任を押しつけるんじゃなくてね。
【脚本家 長谷川圭一】
『ダイナ』でメインライターを務められた長谷川圭一さん。平成3部作が放送されてから20年以上が経ち、日本人の中のテレビの立ち位置はあまり幸せではない方向へ変化してしまったように思います。「教師じゃない」の一言は、そんな未来を予言するかのよう。長谷川さんは今も特撮番組を中心に脚本家として活躍されていますが、変わっていく時代の中にも必ずそこにあり続けるヒーローの普遍的な魅力を、これからも表現していってもらいたいです。
それまで未就学児で視聴者になっても、小学校になると「もうウルトラマンなんて恥ずかしくて見ないよ」っていう状況をなくして、卒業させたくなかった。中学生でも、例えばウルトラマン見てんだよってのが周りに話して恥ずかしくないぐらいの作品作りたかった。
【監督 村石宏實】
大人の鑑賞にも堪える作品を、という志は『ティガ』や『ガイア』で特に感じることが多かったです。平成3部作の中でシリーズ全体のキーとなるエピソードを数多く手がけられた村石宏實監督の熱い言葉。オタクはこういうのに弱いのです。『ティガ』や『ダイナ』を見返そうと思って選んだ作品が「あ、これも村石監督だったんだ」というパターン、僕は非常に多いです。あー、だからなかなか卒業できないのかも。
改訂版に収録される新規インタビューはどんな内容になるでしょうか。
平成ウルトラマンが世に誕生してから20年余り。その間にも幾多のウルトラマンたちがファンの前に姿を見せてきました。次の20年に向けて、今回の復刊をきっかけに『地球はウルトラマンの星』がウルトラシリーズのファンにとって新たなバイブルとなることを願っています。ちなみに僕は、最低2冊は購入する予定。1冊は自分用。もう1冊は、そのときはもう特撮を卒業しているかもしれない10年後の息子へのプレゼントとして。