僕が僕であること(仮)

ウルトラマンが大好きな9歳の息子とのウルトラ備忘録です。

例えるなら「やみつきになる濃いソース味」 / 息子と今見返す『ウルトラマントリガー』の話

 

 息子がなぜか、今やってる『デッカー』じゃなくて、昨年までの『トリガー』をよく見返しているんです。ウルトラマンの話。

 

 今年の7月から放送がスタートしたウルトラマンの新シリーズ『ウルトラマンデッカー』。

 初回からウルトラシリーズのフォーマットに極めて堅実な作りが評判で、GUTS-SELECTの隊員たちや毎話登場する怪獣たちの性格付けも実に個性的。毎週腰を落ちつけながら安心して楽しめる番組で、特撮ファン界隈でも「今年のウルトラマンは “当たり” だぞ!」と沸き立っているところです。

 息子も、新しく登場したロボットメカ・テラフェイザーのDX版おもちゃを買うため今はお小遣い稼ぎに奮闘中。買いたいソフビを我慢しながら毎週土曜の放送を一緒に楽しんでいます。テラフェイザーが闇堕ちする前に(多分するでしょ……?)彼のお小遣いが貯まってくれるといいのですが。

 そんな中、『デッカー』をリアタイ視聴した後に、息子がいつもの如くウルトラマンの録画を見始める。それが『デッカー』じゃなくて『トリガー』、というケースが最近凄く多いんです。「なんで『トリガー』なん?」と僕が訊いても、そこはお年頃の小学2年生。「かっこいいから」と素っ気ない返事しか返ってこない。

 『デッカー』で盛り上がっている今、なぜに今あえて『トリガー』なのか。大人の目線で少し考えてみます。

 

 

 

 

『トリガー』と『デッカー』の比較

 『ウルトラマンデッカー』の安定した作劇は、前作『トリガー』の失敗を踏まえている部分がかなりあると僕は思っていて。

 「NEW GENERATION TIGA」の副題を引っさげてスタートしたものの、カルミラ、ダーゴン、ヒュドラムからなる闇の三巨人を絡めたやや唐突で整合性に欠けたストーリー。怪獣をはじめとする怪奇現象に相対する人間模様を丁寧に描いていた『ティガ』に対して、どうしても怪獣・宇宙人(と、ケンゴ・ユナ・アキト以外のGUTS-SELECTメンバー)が隅に追いやられがちな展開が続き、お世辞にも「ティガの真髄」とは程遠いとしか言うしかなかった『トリガー』。

 そこで、『デッカー』ではあえて「NEW GENERATION DYNA」の副題を外しつつ、「『トリガー』と世界観を共有する続編であること」、「『ダイナ』のリブート作品であること」を最大限に活用することで、出来る限り基本に忠実なウルトラマンを作ろうとしているフシがあります。

 特になるほどと感じたのは、第1話で描かれた、「地球がスフィアのバリアに覆われ宇宙とのコンタクトが取れなくなってしまった」という設定。

 新型コロナに翻弄される世相も反映しつつ、舞台を地球に限定することで物語の不必要な飛躍を防ぎ、「地球の危機に対処する人類」を過不足なく描くための下地にしていますよね。ここで、両親が火星に残されたままの主人公・カナタが口癖にしている「今やるしかねぇ!」が所々でドラマチックに機能しているのも実に上手い仕組みです。

『デッカー』ならではの「出汁」

 現在、前半戦の山場とも言える第12話までを消化した『デッカー』。

 『トリガー』の続編的展開を、『劇場版 ティガ&ダイナ』への愛あるオマージュで包んで見せた第7、8話。平成三部作を思わせる、怪獣の兵器化を画策するマッドサイエンティストの野望とカイザキ副隊長の決意が交差した第10話など、歴代のシリーズと比較しても間違いなく傑作の部類に入る回が既に出始めています。そしてその中で、カナタ、リュウモン、イチカの若い3人の精神的な成長がしっかり描かれている点も見逃せない。

 

 ……と、ここまで書くと典型的な「トリガー下げ、デッカー上げ」になってしまいそうなので一度深呼吸(笑)。

 当然、そんな『デッカー』にも「あれ?」と思うところが無いわけではなくて。キャラクターもストーリーもアクが強く、良くも悪くもすべてが濃厚だった『トリガー』に比べると、全体的にやや薄味な感は否めません。「これ、どこかで見たことあるよね?」という展開や画がやや多いように感じます。

 AIハネジローは、20年以上前の『ガイア』にもファイターを自動操縦できるPALというAIが既にいました。テラフェイザーにしても、『Z』のキングジョーストレイジカスタムとどうしても同じ匂いがしてしまう。

 『デッカー』は我々が見たいものを確実に見せてくれる代わりに、「こんなものが見られるのか!」という驚きはあまりくれない印象なんですよね。「『デッカー』でしか見られないもの」が今のところ少ない。『デッカー』ならではの「出汁」がちょっと薄いというか。

 

 

 

 

イストの違いを楽しむ

 『デッカー』を見た直後に『トリガー』を息子と見返していると、本放送時に感じた「いやいや、それはないやろ……」という部分への印象は基本的には変わらないんですが、例えば第17話「怒る饗宴」で身を挺してトリガーを守るGUTS-SELECTのメンバーの凛々しい背中や、第22話「ラストゲーム」におけるトリガーダークとヒュドラムのケレン味溢れる対決シーンなどに、他のウルトラシリーズでは得られない「味」が確実にあることに気付かされます。

 ケンゴの「スマイル」も、アキトの「うざい」も、最初は小っ恥ずかしくて見ていられなかったのが、最終回付近になるともうそれが無いトリガーの世界なんて考えられなくなる。『デッカー』のトリガー客演回でも、不思議なほどにケンゴやアキトの再登場に安心感を覚えている自分がいましたからね。まるで風変わりな居酒屋の常連客にでもなったような気分で。

 ソースに例えるなら、『デッカー』はさっぱりとした薄い醤油風味で、『トリガー』は、一度ハマるとやみつきになる濃いソース味……と言ったところでしょうか。

 とにかく濃いんですよ『トリガー』は。やみつきになるまでの過程まで濃密で唯一無二だから、どこの店にも置いていない。『トリガー』でしか味わえない超濃厚なソースになっているんですよね。

 

 息子がまるでお口直しをするかのように『トリガー』を見返すのも、彼の中でその濃厚なソースがよっぽど口に合っていたのでしょう。子供は味濃いの、好きですからねえ。

 もちろん、来週以降の『デッカー』も楽しみです。ただ、『トリガー』のようにソースの味をだんだん濃くしてくるのか、それとも『デッカー』ならではの薄味に更に深みを与えて我々を唸らせてくれるのか。そんなテイストの違いを楽しむという意味でも、毎週土曜の朝はテレビから目が離せません。そして、一緒に見ている息子の動向にも要注目なのです。