ドラマ『トクサツガガガ』が先週の金曜日、最終回を迎えました。
誰しもが思ったであろう感想。「全7回は短すぎる!」
もちろん出来のいいドラマだったから短く感じたのでしょうけど、それでも7回ってちょっと短すぎやしませんか?おかげで最終回は初見では話の内容が全然頭に入ってこず、ひたすら「寂しいなぁ」と思いながらテレビ画面を眺めていたらいつの間にか終わっていた感じでした。
あんなにかっこいいジュウショウワンもエマージェイソンも(ゲンカ将軍もラブキュートも)、もう見られないのかと思うと何だか込み上げてくるものが…。第1話から最終話まで、画面の端々から感じられた「トクサツ」への溢れるリスペクト、本当に素晴らしかったです。続編希望。
さて、今回はハマりにハマった『トクサツガガガ』の総括を。中でもこのドラマで僕が最も印象的だった、第6話のラストシーン。主人公の仲村叶が松下由樹さん演じるお母ちゃんをビンタしてしまうシーンについて、感じたことを書き残しておきます。
あのシーンだけひたすら長く感じた
最初に断っておくと、僕は原作の漫画版『トクサツガガガ』を読んだことがありません。
原作を知る方たちは総じてこのドラマ版にも好意的な感想を述べており、Twitterでも、原作の魅力を計7回の放送に上手くまとめたと高く評価されている方が多かったです。原作では、スーパー戦隊やメタルヒーロー以外の特撮シリーズをモチーフにした作品も劇中に登場しているようですね。仲村叶とお母ちゃんの決着もまだついていないとか。
第6話のラスト。仲村叶とお母ちゃんの対決(ここではあえて「対決」とする)は、このドラマにおけるひとつのクライマックスと言ってもいいシーンでした。松下由樹さん演じるお母ちゃんは、これまで比較的ゆるい空気の中で繰り広げられてきた物語に、圧倒的な怪しさと迫力を持って緊張を運んできたのです。
僕はこのシーンだけを思わず何度も見返してしまったのですが、最初に見たときはとてつもなく長く感じたんですよね。このやり取りの向こうには一体どんな結末が待っているのか。この先の展開をなるべくポジティブな方向へ考えようとする仲村叶の心の声は、ドラマの世界に没入し、ただテレビ画面をじっと見つめるしかなかった自分の心境とほぼ一致していました。
「もしかしたらお母ちゃんも、トクサツと今の仲村叶を認めてくれるかもしれない」
視聴者が2人の会話から感じたほんのわずかな可能性を、片腕を破壊されたシシレオーのフィギュアという絶望的な画がバキバキに打ち砕く。だからこそ、仲村叶がとうとう母親に手を上げるシーンは真に迫るものがあって。松下由樹さんと小芝風花さんの演技も凄かったです。2人とも、本当にそこにいる人にしか見えなかった。
共感という痛み
第6話の前半。子どもの頃から大人になった今でも、女の子向けのアニメ『ラブキュート』に熱中する任侠さんとその母親のエピソードを挟んだのは実に上手い見せ方だと思いました。
任侠さんの母親は、学校へ行きたくないという息子の意思も、『ラブキュート』に熱中する今の任侠さんも全てを受け入れていて。そこに少しの葛藤と、絶妙な親子の距離感も表現されているのが素晴らしい。
任侠さんの母親も叶のお母ちゃんも、やっていることは全然違うけど「子どものことを想う気持ち」という点では共通しており、そこをちゃんと見せてくれたことには感謝したいです。多分、僕が一児の父だからですね。
もちろん特オタのひとりとしては、シシレオーのフィギュアを破壊したお母ちゃんのあの行動は許せないし、ビンタされて当然だろとも思ったのですが…。愛する我が子だからこそ、知らず知らずのうちに自分の理想を押し付けてしまう。思い通りに育ってはくれず、そんな娘から手をあげられて初めて気づく自分の身勝手さ。正直ちょっと共感もしてしまったのです、お母ちゃんの気持ちに。
だから仲村叶のあのビンタを見て、いわゆる『スカッとジャパン』的な爽快感みたいなものを僕は一切感じなかったし、むしろお母ちゃんのほうに感情が傾いてしまったくらいで。両者の思いに同時に共感することはとても難しく、僕にも葛藤があったのだと思います。あのビンタは、見ている僕も痛かった。
「自分と違う人がいる」ことを理解する
このドラマの真のメッセージは、ざっくり言うと「みんな違ってみんないい」ってことなんだと僕は思っています。タイトルこそ『トクサツガガガ』ですが、劇中の「トクサツ」は、あくまで登場人物の違いを浮かび上がらせる要素の一部でした。
多様性という言葉が最近よく言われるようになりました。僕はたまたま特撮オタクだったので今回のドラマ『ドクサツガガガ』に注目し、また共感もしたわけですが、世の中にはこのドラマに対していい顔をしない人もきっといることでしょう。同じ特オタというくくりの中にも、それをオープンにできる人できない人、そもそもネタにされたくない人など様々だと思います。
劇中でも、仲村叶の他に、特オタを卒業しようとしていた吉田さんや隠れドルオタの北代さんが登場し、同じオタクの中にも色々なバックボーンを持つ人がいることを分かりやすく見せていました。そして紆余曲折ありながらも、それらの違いがちゃんと魅力的に映っていたことが、このドラマの面白さだったと思います。
最終回。叶はお母ちゃんと和解とまではいかなくても、「お母ちゃんの好きなものを理解する気持ち」を示すことができました。これが、多様性を認めるということなのでしょうね。そしてそんな仲村叶の人間的な成長を促してくれたのが、彼女が幼い頃にリアタイした『エマージェイソン』という特撮番組だったという熱い展開は、一端の特オタとしてとても誇らしく思えたのでした。