僕が僕であること(仮)

ウルトラマンが大好きな9歳の息子とのウルトラ備忘録です。

感想『大怪獣のあとしまつ』 / この落とし前、誰がつける?

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 映画『大怪獣のあとしまつ』を見ました。

 

 えーっと、「見ました」というか「見てしまいました」と言うべきか…。

 この映画、公開初日のTwitterでの酷評っぷりを見るにつけ、もう映画館にわざわざ足を運んで1900円も払って見に行くべきではないかと思っていたんです。しかし、その後もあまりにマイナスの意味で各方面で話題になり続けていたので、僕もとうとう我慢出来ずに劇場へ足を運んでしまいました。「映画を見る人」としてではなく「完全なる野次馬」として、です。あーもう、お金払っちゃいましたよ。

 この時点で既にもうお察しかとは思いますが、この『大怪獣のあとしまつ』、お世辞にも面白いとは言えない出来の映画でした。

 僕が見た回では、スクリーンの入りはちょうど半分くらいでしたかね。既にこの映画が世間からどんな評価を受けているのか、僕も含めて分かっている人たちがほとんどだったと思われます。要するにみんながみんなハードルを下げに下げている状態での鑑賞。それでも、エンドロールが終わって明かりがついた瞬間に聞こえてきたのは「やっぱり酷かったな…(笑)」の声。

 嫌味っぽい言い方になってしまい申し訳ないのですが、ある意味貴重な映画体験をさせてもらったと思います。あんなに他人のため息を直に感じ取れてしまった空間、僕の人生の中でもほとんど記憶にないくらいでしたから…

 

 

 

 

※ここから先はネタバレを含みます。

の映画の良かったところ

 最初に酷いことばかり書いてしまいましたが、よく言われている「令和のデビルマン」だとか「歴史的駄作」だとか、その辺りの批評する際の表現についてはやや誇張が過ぎるかなというのが僕の個人的な印象でした。見る価値が全く無いわけじゃない。良いところも、別に無くは無かったです。

 東映と松竹がタッグを組み、VFXにも多額の予算をかけたというだけあって絵面はとても豪華でした。

 僕が特にいいと思ったのは、山田涼介さん演じるアラタの所属する特務隊の武装です。

 ヘルメットやバイクのデザイン、司令室の内装なんかも結構凝っていて、最初の15分くらいまでは割と本気で「もしかしてこの映画、僕には合うのかも…」と淡い期待を抱かせてくれました。また、山田涼介さん自身がめちゃくちゃ美形な上に台詞回しも強弱の付け方が上手く、「怪獣の死体の後処理に奮闘する主人公」のイメージが見た後もきちんと残りました。

 「希望」と名付けられた怪獣のディテールも見事でした。対象物の少ない河川を主な舞台にしながら巨大感の表現にもチャチさを感じる部分は無く、少なくとも怪獣周りのビジュアルに関しては掛け値なしに良かったと言える出来だったと思います。

いの起きないコメディ

 …と、まあ本当に「良かった」と言えるのはそれくらいでして…。ここからは怒涛の悪口です。

 この映画、ジャンル分けするとすれば「コメディ」になるのでしょうが、笑えるところが本当に何一つありませんでした。

2時間の中にあれだけギャグを詰め込んでおきながら、映画館に笑い声が一つも起きないなんてことがありますか。公開初日の映画館の空気を想像するだけでも恐ろしいです。

 特に酷かったのが、恐らく『シン・ゴジラ』をベースにしたと思われる「怪獣の死体処理について総理大臣以下閣僚たちが責任を押し付け合い右往左往…」という一連の流れ。

 「感動して泣いた涙も、鼻毛を抜いた涙も見分けはつかんだろ?」などと、いまいちピンと来ない例え話をしつこく繰り出す国防大臣を筆頭に、いちいち話の腰を折るだけの女性環境大臣、何も気の利いたことを言わない官房長官、態度だけはいっちょ前な厚生労働大臣等々…。

 設定としてのリアリティ云々の話を抜きにしても、人間の会話としてあまりにも不自然で虚無な時間が流れていました。そして丸々2時間このノリがずっと続く上に、ギャグの一つひとつがどれも全然面白くない。それとも、「こんなおバカなお偉いさんたちの国家があるわけなかろうに!」という、それ自体が一つのギャグだったのでしょうか。あの『シン・ゴジラ』をベースにしておいて、とんでもない話です。

 あの吉本新喜劇ですら、笑わせる前にはそれなりにちゃんとしたお芝居を見せるものです。「フリ」が無ければ、「オチ」も無いのです。

 ギャグの応酬も、ただつまらないだけなら見て見ぬフリをすることも出来なくはありません。しかし、この映画の更にタチの悪いところはつまらない上に「くだらない」ギャグを何度も何度も投入してくるところです。つまり「品の無い下ネタ」が結構な頻度でお出しされるのです。

 「うんこ」「ゲロ」などと言った、小学校低学年の子が手を叩いて喜びそうな幼稚な表現を無意味に多用し、挙句の果てには「あのキノコだけ何か違う?」といった、もう本当に振り返るだけでもこちらのテンションが9割くらいガクッと下がってしまうレベルのくだらさなさ。土屋太鳳ちゃんにスクリーンで何をさせとんねん。

 

 

 

獣ムーブメントの行方

 肝心の物語も、お寒いギャグと特に必要性も感じられない恋愛描写、不倫ネタに邪魔されてとても分かりにくかった。『大怪獣のあとしまつ』というタイトルが無かったら、具体的に何を描いている映画なのかを説明することすら難しかったと思います。

 さて―。

 どうして僕が、この評判の悪い映画をわざわざ映画館まで見に行き、こうしてブログに感想を残しているのか。それは、一特撮ファンとしてこの『大怪獣のあとしまつ』に100%以上の大きな期待をかけていたからに他なりません。

 実際、予告編を見たときのワクワク感は相当なものでした。加えて、「ヒーローに倒された後の怪獣ってどうなっているの?」という着眼点の鋭さと、それで映画を一本作ってしまおうという勇気。ウルトラシリーズにはそういった話が以前からもありましたが、それこそカップルが腕を組んで観に行けるような一般向けの大作でこのようなニッチなテーマが扱われること自体、特撮オタクの僕らにとっては一つの事件だったわけです。

 『シン・ゴジラ』が特撮ファン以外の一般層にも支持を広げて一大ブームになって以降、僕らがずっと大切にし続けてきた「怪獣」というジャンルの魅力が世間にも届き始めている…3ヶ月後には『シン・ウルトラマン』の公開も控える中で、このムーブメントに新たな火をつけてくれる可能性を『大怪獣のあとしまつ』に感じていたんですよね。

 だからこそ、実際に出された作品のあまりのつまらなさ、度を越したふざけっぷりに大きく落胆してしまいました。そしてはっきり「僕の好きな怪獣映画はこんなふざけたもんじゃない!」と、声を大にして言っておかないと気が済まなかったんです。ニチアサを作っている東映と、ウルトラ映画の配給元である松竹が組んでこの出来というのが本気で悔しかったですよ。

 一番許せなかったのは、アラタが突然巨大化して希望を持って行ってしまうあのオチ。クラシック調の壮大な劇伴が逆に腹立たしかった。もうみんな予想してましたから、その展開。